当社の静電塗装機の点検、メンテナンスをしている会社の社長さんがいるのですが、この方、この業界に携わって50年の経験を持つ経歴の持ち主です。静電塗装について幅広い知識があるのではないかと思いメンテナンスに来た日にあわせて、お話をお聞かせ下さいと申し出をしました。私としても日本ではいつ頃から使われるようになったのか知りたい面があり、この際いろいろ聞いてみようと思ったのです。
最初に説明してくれたのが、静電塗装機メーカーの変遷でした。
日本のメーカーで、社名をオサメ→ダイマック→日昇技研と変わって行った会社、この流れで他に関東ダイマックがあるそうです。創業者はオサメ ゴヘイという方だそうです。
次に中矢というメーカーでナカヤ エイゾウという方が作った会社で、今は旭サナックという会社に吸収されたと説明を受けました。他に日本工芸→トリニティ、岩田塗装機工業→アネスト岩田とあるそうです。
外資系では、アメリカはランズバーグ、ビンクス、デビルビス(この2社は後にランズバーグに吸収されたとの事)、ノードソン。
ドイツはワーグナー、など。
と立て続けに名前が出てきました。さすが、長い経験を持っているなと感心しました。
日本では、何時頃から静電塗装が行われていたのですかとの問いに、戦中頃、軍で試されていた。昭和28年頃、ミシン、ボンベ塗装に使われ始めたと説明がありました
当社静電塗装機導入にあたり購入した、「最新静電塗装技術」(渡辺 保著)と言う本がありますが、それにもミシン塗装が紹介されています。
この本に四方山話風に静電気について紹介されていました。結構興味深いので引用し記述します。かいつまんで書きます。
第一章 静電気学の発展の歴史に不思議な現象の1項に、「今から2500年前、ギリシャの哲学者(B.C.-624~548)は、町の中でうわさを耳にした。ある宝石商人が宝石を布で磨いている時、コハクがやわらかい羽毛のような軽いものを吸いつけるという不思議な現象を発見した。しかし、彼は魔法を使うといって役人から処罰をされるので恐れて、だまっているというのである。・・・・・中略・・・・」
それを聞きつけたターレスは、当時第一級の学者のため見識を以ってそれを解明し、静電気の発見者として後世に名を残すこととなる。
子供の頃、下敷きを擦り、静電気を起こして髪の毛を立てたり、細かく割いた紙などを吸着させて遊んだことを思い出します。
「時代は下がって11世紀終わり頃、有名な十字軍の戦争が始まった。十字軍に参加した兵士が例によって魔よけのために持っていた磁石がふとしたことから、ある方向を示すことを発見した。これは電気学を発展させる大きな契機となった。・・・・・中略・・・」
これが磁気コンパスとなった(器に水を入れ東西南北の盤を浮かべて磁気がはたらき方向を知る)。
2項には、町医者ギルバート(ロンドンに住み、16世紀後半の人)の実験というタイトルで、「彼の研究、今日の知識から見れば、磁気的現象と、静電気的現象のほんの初歩的のものであったが、近代物理学の創成に大きな足跡を残した。・・・・・」
この項の記述で、興味を引いたのが静電気の作用をラテン語で、Mis Elctria ギリシャ語でElectron(コハクの意)と名づけたとあり、
宝石が電気の語源とは面白い。
5項に静電塗装の着想とあって、ここには現在の静電塗装の基になる発明と記されていた。
「1764年、静電塗装にとっては、まさに記念すべき実験が行われたのである。フランスの修道院長 Abbe Nolt師は静電気遊び(当時流行っていた)を行っているうち、ふと静電気が液体を微粒化することを発見した。・・・・・・中略・・・静電霧化の実験を試みたのである。彼はこれが塗装に応用されることを考えた。・・・」
実験の様子
「最新静電塗装技術」より
当時は摩擦車で静電気を起こしていたので召使が動かすため、長い時間は出来なかったようです。
静電塗装の発明は、18世紀と言っていいでしょう。
現在では、いろいろな霧化方法があります。
1 空気霧化方式
2 液圧霧化方式
3 回転霧化方式
4 ウルトラソニック方式(超音波を利用、しかし市場に出ず)
この方式に加え静電気をかけ更に微粒化させる。
他に純電気式があり、これは上記のものと違い、静電による霧化、吸着だけで行うもの。
現在普及しているのは1~3までのものと思います。
当社が使用している静電塗装機は1に該当し、定置式でレシプロケーター(上下動する装置)に静電ガン4丁装着し6万ボルトほど電圧を加えて、塗装を行っています。
私の経験で3に該当するものとして、ランズバーグのディスク型を見たことがあります。
回転する円盤に塗料を流し、電圧をかけ霧化する方法。他にダイマックのカップ式がありますが、方向性を出すためにシェーピングエアー(微粒化した塗料を包み込んでパターン化する)を使っていました。
説明の中で、強調された出来事で特許問題がありました。
昭和28,9年頃、ランズバーグ社 社長ハロルド ランズバーグー氏が弁護士 ジェームス アダチを介して特許使用料を日本のメーカーに対し請求する事と相成ったそうです。静電の原理、帯電させ、電荷された塗料が+、-の吸引力により被塗物に吸着する作用を使って塗装する場合使用料を出せとの要求です。使用料の算出の仕方が従来のスプレー塗装と静電塗装した時、塗料使用量の差を払えという事だった。
これは静電塗装の特長で、※塗着効率が良いために、使用量が減る効果に対し代価を払えとの要求です。
日本のメーカーは対応に苦慮しながら、抵触しないようなやり方をしていると主張しながら抵抗していたようです。その後、特許期間が終わり現在に至ったとの事。
※ 普通のスプレーガンに比べ、形状にも因りますが、50%~80%塗料が節約できます。静電塗装のセールスポイントになっていました。
静電塗装機の原理
「最新静電塗装技術」より
戦後復興期から、昭和30年代高度成長していく中、家電、自動車業界など大量生産(マスプロ)に向かっていく過程で、普及して行き、大いにその効果を発揮していったのだと思います。
大量生産向きの塗装方法ですが、静電の作用を利用しているために塗装する際に次のような欠点もあります。
1 尖った所によけいに付きたがる
2 細かいすみに入らないから、補正塗りが必要
3 設備費が高い
4 どんな塗料でもつかえるというわけにはいかない
5 スパークによる引火の危険性がある
「最新静電塗装技術」より。
この本が書かれたのは昭和55年、現在では装置的に進歩し、当時よりは5の安全性は高くなっていると思いますが、1~4までの現象は今でも同じと思われます。
それと、大量生産には向きますが、多品種少ロットとなりますと、静電塗装は塗装専用治具(ハンガー)が必要なのでかえっていろいろな製品を塗装しようとすると無理があります。
しかし、手持ち静電ガンなどもあり吊るし方を一本化して補正塗り(タッチアップ)を併用ですることである程度、小ロットの対応は可能かと思われます。
環境問題の取組として、水系塗料で静電塗装する試みも取り組まれていると説明を受けました。
最後に静電塗装の設備を記します。
1 塗装機器
2 高圧発生器
3 塗装供給装置
4 空気供給装置
5 制御装置
6 コンベア
7 乾燥焼付炉
8 静電ブース
参考資料 「最新静電塗装技術」 著者 渡辺保 出版 理工出版社
日本の回転霧化静電塗装機の歴史は、掲載されているのと、若干違いがあります。日本では、ヲサメ→電気塗装機工→電装機械製作所→ダイマック。エアー霧化静電塗装機では、中矢産業です。
塔本さんご指摘ありがとうございました。
コメントを掲載させて頂きました。
察するに、静電塗装機関連のお仕事に長く関わっている御様子、回転霧化が進化するにも何社かを経ているのですね。
ダイマック工業の前は、大和医療電気株式会社だったと。
そうですね。言われてみれば聞き覚えがあります。有難うございました。