塗料の乾燥

以前「塗料の分類」のブログで紹介した中で、乾燥硬化別分類の乾燥について一つ一つを技術資料より引用して説明したいと思います。
塗料の乾燥(塗膜形成)には下記の種類があります。
1 自然乾燥(air drying cold curing)
2 焼付け乾燥(baking )
3 硬化剤を用いて化学反応で硬化。2液型塗料が該当(two package coating)
4 紫外線硬化(ultraviolet curing)
5 電子線硬化(electron beam curing)
6 漆(Japanese lacquer)
各項目を説明します。
1) 自然乾燥は空気乾燥、常温乾燥。 塗料が常温の空気中で乾燥すること。
自然乾燥型塗料がこれに該当し、外部エネルギー(熱、光等)を強制的に与えずに、常温の大気中で自然に乾燥する塗料。溶剤の蒸発、大気中の成分と反応、樹脂成分との反応によって塗膜が硬化する。ラッカー、塩化ゴム樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料等、同じ樹脂でも硬化様式を変えて、常温乾燥形塗料、焼付形塗料、光硬化形塗料等に分かれることがある。
日常的に一番身近な塗料だと思います。「ペンキ塗りたて注意」などの貼り紙が印象にあります。
油性エナメルで、ボイル油をビヒクル(展色剤)の主体とした塗料で乾燥が遅いため注意書きが必要だったのでしょう。最近は、長油性フタル酸樹脂塗料にほとんど置き換わっているそうです。

2) 焼付け乾燥は乾燥炉を用いて、塗料を蒸発、酸化、重合させ塗膜を形成する。当社の場合、100℃~170℃ 20分ほどで乾燥させています。
川越第二工場では260℃×10分で焼き付ける塗料を扱っています。
焼付塗装は焼付形塗料を用いて、金属、プラスチック等の被塗物に塗料を塗装した後、加熱乾燥炉にいれ、70℃~300℃の高温で加熱して丈夫な塗膜を得る。
水酸基、カルボキシル基等の活性官能基を有する主剤樹脂とメラミン樹脂等の硬化剤を主成分としている。これに顔料、添加剤、溶剤等を適宜配合して塗料としている。自動車用上塗り塗料は、アクリル・メラミン焼付け形塗料の代表的なものである。
川越第二工場 焼付例 210℃×10分
クリアー塗装(顔料がない樹脂だけのもの)です。
乾燥炉に入る前と出たときでは、焼き付けられて変色しているのが分かると思います。
乾燥炉に入る所
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乾燥炉から出て焼付終了
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塗装専門工場に一番普及している塗料と思います。当社ホームページ塗装実績で紹介している通り、様々な形状を塗るには汎用性が高く使い勝手がよいのです。
例えば、UV塗料を使い複雑な形状の被塗物を塗ったとします。影になり照射されない部分は硬化しません。
3) 二液型塗料は、二つの成分を使用直前に混合して塗ると、二つの成分の間で化学反応が起こり、硬化して乾燥する塗料。二つの成分の一つは一般に硬化剤と呼ばれている。代表的なものとしてエポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料がある。
当社のHPの塗膜性能表、No3、No6、No8の塗料が該当する。反応を促進するため100℃程度の加熱をしている。
二液型は接着剤にも応用されています。
4) 紫外線を受けて硬化する塗料、紫外線硬化形を用いて塗膜を形成する。UV硬化塗料、感光硬化塗料、光重合塗料。硬化反応の形式から、ビニル重合形、光付加重合形、光カチオン重合形等に分類されるが、ビニル重合形が最もよく使用されている。塗料は、重合性二重結合を持つプレポリマーと重合性モノマー、および光開始重合剤(光増感剤)とからなり、ケミカルランプ(紫外線蛍光灯)や高圧水銀灯等から出る紫外線により、数十秒~0.1秒で硬化する。木質床材・家具等には不飽和ポリエステル系が、パイプの一時防錆コーティング、缶のホワイトコーティング、紙器の艶ニス、光ファイバーの保護コート、プラスチックのハードコート等にはアクリル系が使用されている。無公害塗料、省エネルギー、省スペース、塗料と注目され、用途が増えている。

当社では、十数年前にゴルフクラブのヘッド塗装を手掛けたことがありました。アクリル系塗料は硬度がとても出るので、傷がつき難いと考え都立産業技術研究センターの設備を借りてUV塗装をテストしたことがあります。独特の臭気で鼻につく臭いが印象的でした。乾燥時間が短くて塗膜を形成する利点はありましたが、当社のように種々の製品、形状を扱っていると汎用性に難点があり、テストだけに留まりました。
5) 電子線硬化(EBC)は、電子硬化塗料を用いて塗膜を形成させる。
RC塗料、EBC塗料、エネルギー線硬化塗料。
電子線エネルギーを利用したラジカル重合により硬化乾燥をさせる塗料。従来の塗料のように乾燥剤や触媒を加えたり、塗りやすいように溶剤で薄めたり、乾燥を促進するために加熱させたりする必要がなく、電子線を照射すれば数秒で硬化するのが特徴。
このタイプの塗料は、当社は馴染みがなく、どんな分野で使用されるのか検討がつかなかったので、
取引先塗料メーカーに聞いた所、次の様に説明してくれました。
使用される産業分野として、プリント基板のオーバーコート、液晶パネルのフィルムのオーバーコートなどがあるそうです。
これも、UV塗料同様、照射されない部分は硬化しないので、形状が複雑になれば、被塗物を回転させるなど工夫がいるそうです。
6) 漆は、古来より使われている塗料です。 漆は漆の樹皮に傷をつけて滲出する液を漆液という。漆液は乳白色をした油中水滴のエマルション構造をし、その成分はウルシオール(60%~70%)、水分(25%~30%)、水溶性多糖類(5%~10%)、糖蛋白(1%~5%)、酵素ラッカーゼ(<1%)等からなる。乾燥機構はラッカーゼの働きでウルシオールがウルシオールキノンとなり、これがさらにウルシオールと反応して高次重合体を形成する。ラッカーゼは、高湿度ほど活性なため、漆膜は適度な湿度(70%~80%RH)を有する室(むろ)と称する乾燥室内で乾燥させる。漆液から異物をこし除いた生漆、ナヤ
シやクロメの工程を経たスグロメ漆、これに補助剤を加えた朱合漆や、梨地漆等の種類がある。
※ 生漆を常温で攪拌することを「ナヤシ」といい、ナヤシの後、40℃前後で加熱攪拌することを「クロメ」と言う。
漆では、輪島塗などが有名です。工芸品などに使われていますが、塗装技術の講習会で講師から次のような説明を聞いた記憶があります。
有機系樹脂の塗料は乾燥して塗膜を形成した直後から劣化は始まるが、漆はさらに上質な塗膜を形成し続ける」と、塗膜の寿命が長いと言うことかなと理解しました。
確かに、古くから残存している漆器など見ると納得します。
参考資料「塗料用語辞典」 編者 社団法人 色材協会篇 出版元 技報堂出版社より

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